今回は、今年の秋(2025年9月)に明治学院大学社会学部社会福祉学科を卒業したばかりの尾﨑風実さんをご紹介します。子どもの頃から海外への興味があり、また高校時代の学びから、誰もが安心して暮らせる社会を目指す社会福祉に強い関心をもった尾﨑さんは、本学で社会福祉と内なる国際化を同時に学びました。コロナ禍で制約のあった学修環境を乗り越え、ご自身の韓国での留学経験を糧とした尾﨑さんは、「将来、在日外国人に関わる仕事ができたら」との思いを「日本語の先生になる」ことで実現されました。卒業を目前に控えた尾﨑さんが、これまでの学生生活を振り返り、社会福祉と内なる国際化の学びに対する思いを語ってくださいました。
(内なる国際化プロジェクト事務局)
明治学院大学社会学部社会福祉学科に入学した理由
私は小さい頃からK-POPが好きでした。小学校低学年の時、学校でK-POPを歌ったり踊ったりしていると「お前、韓国なんて好きなの?」と同級生に言われたことがあります。当時は、竹島問題や慰安婦問題に関するニュースが多く報道されていたこともあり、韓国に対して悪い印象を持っていた同級生も少なくなかったです。自分が好きなものを否定されることはとても悲しかったですし、個々を見ずにニュースだけを見て国全体のことを決めつけていることに、子どもながら強い違和感を感じました。そこから自分の中で「偏見」や「差別」というものへの関心が始まったのだと思います。その影響もあり、高校時代は国際科に進学しました。印象に残っているのはSDGsに関する授業です。一部の国では幼くして命を落とす子どもが多かったり、学校に通えず働かざるを得ない子どもがいることに衝撃を受けました。学校に通えることも、きれいな水を飲めることも、私にとっては当たり前でした。でも、世界にはそうじゃない場所があると知って、ただ驚いたし、ショックでもありました。だからこそ、周りの人や環境から自分が当たり前に受けてきたものをそのままにせず、何かに役立てたいと思うようになりました。そこから、誰もが安心して暮らせる社会を目指す社会福祉に関心を持ちました。社会福祉への興味とともに、海外への興味もあった私は国際福祉に力を入れていたことや「内なる国際化プロジェクト」に魅力を感じ、明治学院大学の社会福祉学科に入学しました。
コロナ禍の大学生活
大学入学当初は新型コロナウイルスの影響で、家でオンライン授業を受ける日々が続き、楽しみにしていた2年次の海外での福祉開発フィールドワークの活動も中止になってしまいました。しかし、それでも社会福祉の授業と同時に「内なる国際化プロジェクト」の指定科目「グローバル社会と市民活動入門」や「内なる国際化論」を履修していたため、海外への関心は変わりませんでした。社会福祉と内なる国際化を同時に学ぶことで、日本に住む外国人の現状を社会福祉の視点から分析し、彼らの困難をどう解決できるか具体的に考えられるようになりました。内なる国際化の授業はとても面白かったし、将来、在日外国人に関わる仕事ができたらと思っていました。しかし、「物足りなさ」をも感じていました。それは、私自身が外国人になった経験がないから彼らに共感ができなかったためです。どれだけ在日外国人について学んでも、事実を「知っている」だけで、その人たちを「理解」できていない気がしていましたし、仕事にするにしても「寄り添う」ことが自分にはできないという確信がありました。そこで、外国人になるために留学に行くことを決心しました。
十数万円を失って夢を見つけた韓国留学
3年生の秋学期を休学し韓国で半年間の留学をしました。滞在中は、ホームステイをして現地の人と交流したり、語学堂のクラスメイトとも積極的に交流しました。また、インドアだった私も「せっかく留学に来たから!」と行ったことのない場所にもたくさん行き、新たな発見もたくさんありました。現地で出会う人々はとても親切で、日本に興味を持ってくれている人が多く、誇らしくありがたかったです。とても刺激的で幸せな日々でした。
しかし、順調だった留学生活で大事件が起こりました。家を借りていた家主とトラブルになり、十数万円を失う結果になりました。怒る気持ちと悲しい気持ち、そして何より自分の無力さに落ち込みました。これまで、それなりに勉強もしてきたし、「しっかりしているね」と言われることが多かった私が、こんなことになるとは予想もしていなくて、本当に落ち込みました。その時、外国人として自分がどれだけ無力なのかをひしひしと実感しました。
しかし、そんな時も現地に頼れる人がたくさんいました。その中でも忘れられないのは現地の韓国語の先生です。先生はいつも私の話を聞いてくれたし、いつでも味方でいてくれました。先生が問題を解決してくれるわけではありませんが、いつも話を聞いてくれることが当時の私には何よりも力になりました。また、トラブルにあった時に自分の意見や考えを伝えることができたのも先生が韓国語を教えてくれたおかげです。トラブルのせいで「早く日本に帰りたい!」と思っていましたが、そんなことを話した時に先生がくれた言葉のおかげで、大変だった思い出を全て忘れて、心の底から「留学をして良かった!」と思えました。
そして、その時から日本語の先生になるという夢を持つようになりました。私は、言語の先生は、言語を教えるだけじゃないと思っています。語学力は、その国で生きていく力に直結します。まさに、社会福祉での「エンパワメント」です。そして、私が出会った先生のように、外国人のすぐそばで助けてあげられる存在でもあるのです。漠然と在日外国人に関わる仕事をしたいと思っていた私ですが、韓国語の先生が留学生にとって心強い存在である姿に憧れ、帰国する頃には日本語の先生になりたいという夢を抱くようになりました。
日本語の先生への道のり
帰国後は、日本語の先生になるために日本語教師養成講座に通い始めました。また、実践的なこともしたいと思い、外国にルーツを持つ子どもたちにオンラインで日本語を教える、オンライン日本語教室「みなとGlocal」でのボランティア活動も始めました。みなとGlocalで出会う子どもたちは、年齢や国籍、母語、日本語レベルがそれぞれ違い、さまざまな文化を持っています。そうした子どもたちと交流することはとても楽しく、私自身もいつも元気をもらっています。
また、その活動を通して、外国にルーツを持つ子どもたちの高校進学の難しさを実感しました。みなとGlocalの活動で出会う中学生には、英語や数学が得意な優秀な生徒も多くいます。しかし、一般的な高校入試の多くでは国語が必須となるため、そうした力があっても受験で勝ち抜くのは難しくなります。また、高校入試自体のシステムなどに関する情報の集め方も知らない生徒、保護者も多いです。最近では外国にルーツを持つ子ども生徒を対象にした入試を行なっている自治体も増えてきましたが、その入試の倍率は大変高く、決して簡単なものではありません。そんな子どもたちを間近でみながら、何もできない自分に歯痒さを感じていました。
そんな時、私は高桑光徳先生(教養教育センター)の「グローバルシチズンシップ各論」という授業を履修していて、ちょうど「自分が関心のある問題に対するプロジェクトを行う」という課題が出されました。そこで、外国にルーツを持つ子どもたちやその保護者向けの高校進学情報サイトの作成をすることにしました。インターネット上には高校進学についてまとめた資料はありますが、情報量が多く、読むのが大変なものも多いと感じていました。母語であっても文字数が多いと読む気を失ってしまう子どもが多いことに気付いたからです。だから、私は、高校入試の概要だけをイラストや表を多く使ってまとめて、高校入試について負担なく知ることができる、ファーストステップとなるようなサイトの作成を目指しました。そのときに作成したウェブサイトがこちらです。
「内なる国際化」は誰もが学ぶべき
みなとGlocalの活動の中で、日本の学校に通っていても、「防災」「保健室」「交番」といった言葉を知らない子どもに何人も出会いました。これは命に関わる問題と言っても過言ではないと思います。幸い、みなとGlocalの子どもたちは教えてくれる先生がいますが、きっと日本社会にはこうした子どもたちがたくさんいるはずです。守られるべき子どもがそんな状況に置かれているのは、あってはならないことだと思います。これは、決して個人の問題ではなくて日本社会全体の問題です。日本の制度は外国人がいない前提で考えられているものばかりです。しかし、今の日本には多くの外国人が暮らしていて、彼らによって日本社会は支えられています。学校や職場に外国人がいること、お店のお客さんや隣人が外国人であることなど、こうした状況はすでに当たり前になっています。だからこそ、「内なる国際化」の視点は今後さらに重要になると思います。すでに、日本を考えていく上で欠かせない知識であり考え方になっています。
これから
私は大学で社会福祉と内なる国際化を同時に学べて本当に良かったと思っています。この学びがあったからこそ、日本語の先生というワクワクする自分の夢を見つけることができました。
私の今後の目標は、日本語の先生という立場を活かして日本人と外国人を繋ぐ存在になることです。これからの日本では、多様な場面で外国人と出会う機会が増えていくと思います。しかし、かつての私がそうであったように、いざ外国人と出会った時に身構えてしまう人も少なくないと思います。そんな時に間に立って、どちらも安心して交流できるような場や環境を作れる存在になりたいです。
学生の方へは、ぜひ多くの人に内なる国際化を学んでもらいたいと思っています。これからの日本社会を考える上で絶対に必要なことであり、どんな学問にも関わってくることです。
そして、多くの人に日本国内の国際化について考えてもらいたいです。「自分もいつか外国人に出会うかもしれない」「自分とは違う文化を持った人がいるかもしれない」と想像しておくだけで十分だと思います。その想像が、自分も相手の外国人も安心させてくれると思います。そして、その輪が広がれば、誰もがより安心に過ごせて豊かな日本につながると思います。ぜひ、この記事を読んでくださった方にも想像してもらえたら嬉しいです。

(日本語教師養成講座を修了したときの写真)